ヴィッセル神戸、大躍進の秘密 「もう、データを見ないと落ち着かないんですよね」
デジタルテクノロジー×スポーツ最前線
ヴィッセル神戸は2023シーズンのJ1リーグで逞しい戦いぶりを見せ、悲願の初優勝を遂げた。ピッチで躍動した選手の一方――画面に映らない裏側で、クラブ全体の強い組織づくりのため、データの有効活用が推進されている。社長の千布勇気(以下敬称略)は「今季の勝利や順位は選手、監督、スタッフの頑張りがほぼ全てです」と話すとともに「課題をより明確にするなどの面でデータを役立てています」と話す。
ヴィッセル神戸の意思決定で大いに役立っているのが、データ活用プラットフォームの「Domo」である。Domoは、BIツールの枠組みを超え、組織・部門をまたいだデータ活用を可能とする。ユーザーがダッシュボードを自社・自チームのニーズに応じてカスタマイズすることができ、ヴィッセル神戸でも「定量的かつ俯瞰性を持って」(千布)意思決定できるという。
このツールを採用する企業は数あるが、プロスポーツクラブでどう実装されているのか――トップチーム 分析・データシステム担当の饗場雄太は自身の役割をこう語る。
「トップチームを構成する要素として強化・スカウト・コンディショニングなどがあります。それらを横断的に結びつけるためのデータ管理・分析からシステム導入、運用サポートまで幅広く担当しています」
「データがあることで、意思決定のベースを持てている」
ヴィッセルが本格的なデータ活用に着手したのは’19年のこと。1年目は千布や饗場らが地道に現場の理解を深めていくとともにデータ蓄積を進め、Domoの活用を始めた。そして現在では「各分野でデータを組み込んだプロセスがしっかり回っていると肌で感じています。データがあることで、意思決定のベースを持てているという実感があります」(饗場)ほどになったという。これを聞いたドーモの川崎友和は「千布社長の決断で導入し、饗場さんを筆頭に回している。そのコミットメントも大事な要素だと感じます」と語る。
気になるのは、ヴィッセルが具体的にどう課題解決にDomoを使用しているか、だ。饗場が挙げてくれた実例は「メディカル部門」だ。現代サッカーでは1試合ごとの強度が増し、国際大会を含めた過密日程で選手たちが疲労・負傷するのが大きな悩みとなっている。ヴィッセルはデータ分析でケガ発生のメカニズムを可視化させているそうだ。饗場がその〈舞台裏〉を明かす。
「シーズンの半期、シーズン後に分析チームを交えてケガの振り返りをします。例えば昨季までは筋肉系の肉離れがとても多かったのですが〈それがいつ発生して、注意するべき期間はいつか〉が可視化されます。それがメディカルの皆さんの頭に刷り込まれている。各部門でデータを交えたプロセスが回っている点は、大きな改善だと感じています」
ビジネスでは全社員が必要なデータにアクセスできる環境を整えることが重要視されているが、スポーツの世界では選手のパフォーマンス、モチベーション管理の観点からデータを厳選する必要があると饗場は語る。
「チームの状況によっては見せない方が良いデータもあります。情報の取捨選択、質・量・タイミングを見誤らないことは最も重要だと考えています。得られるデータが100あるとすれば、現場に伝えるのは1~5、選手によっては0.5くらいなど、本当に必要なものを厳選して見せるようにしています」
ヴィッセルは完全な「データドリブン」な組織を目指しているのではなく、各部門の“プロの目”、知見や経験をベースに、データを組み合わせることで、より質の高い意思決定ができるような仕組み作りを目指しているという。
「今まさにデータのパワーを大きく感じています」
千布もまた、ピッチ内外で手ごたえを感じている。
「スポンサー営業やチケットセールスなどビジネス側でも導入していますが〈そもそも何が必要なデータか〉という定義から始まるのがスポーツの世界かなと思っています。KPIを各部署・領域で設けたり、複数年分の傾向を溜めることで、予測精度が高くなっている。今まさにデータのパワーを大きく感じています」
特に蓄積という面で大きいのは、大迫勇也や山口蛍ら日本代表、海外でも実績を残した名選手たちが在籍していることだ。
「彼らのフィジカルデータや試合でのパフォーマンスデータは若手育成の指針となるだけではなく、選手獲得などのチーム強化に良いベンチマークとなっています」
つまり、ヴィッセルは将来に向けて無形の遺産を手にしている段階なのだと言える。川崎も未来への期待を込める。
「予測分析はDomoが得意なことの一つです。データがより細かく、長く溜まるほど機械学習で賢くなっていきます。ヴィッセル神戸は先んじてそこに取り組んでいるので、サッカー界のデータ領域で他に圧倒的に差をつけられるのではないでしょうか」
「継続的に勝てる、強いチーム作り。それを整えていく」
「今おふたりが話されたことは、Domoの中で予測分析と言われる世界に繋がります。データがより細かく、長く溜まるほど機械学習で賢くなっていきます。ヴィッセル神戸が先んじてそこに取り組んでいるのは、サッカー界のデータ領域で他に圧倒的に差をつけられるのではないでしょうか」
それを聞いた千布と饗場は「長い目で継続的に勝てる、強いチーム作り。それを整えていくというミッションを持っています」と笑顔で語りながら、Domo内で作り上げたクラブのダッシュボードを川崎に見せた。すると――PCの画面には選手、クラブのパフォーマンスがレーダーチャート化されるなど、数多くのデータが現れた。
「私の想像を超える粒度で、リアルタイムにデータが活用されていることに驚きました!」
川崎が驚いたほどのデータ活用。ヴィッセルが取り組む日々の蓄積は、サッカー界の新潮流となるポテンシャルを大きく秘めている。
最高のパフォーマンスを発揮するために。
Domoは、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールカテゴリーに位置付けられているが、あらゆるビジネスにおけるデータ活用をワンストップで提供できる唯一無二の特徴がある。企業・組織の各部門・領域で必要な機能を兼ね備えているため、これまでサイロ化・分断化されがちだったデータの全社的活用を実現させることが可能だ。「データがない」「どんなデータを準備すればよいかわからない」といった不安にも、技術・ビジネス両側面で伴走してくれるコンサルタントなど人的サービスも提供しているので安心だ。
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text by 茂野聡士(Satoshi Shigeno)
pthotograph by 松本輝一(Kiichi Matsumoto)
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※Sports Graphic Number 1087・1088号(2023年12月21日発売)に掲載