Domoで財務・非財務・市場データを可視化。データドリブン経営を目指し、一部経営層に導入を開始
1. ビジネス背景:中期経営計画に明示されたデータ活用の民主化とDX推進
大和ハウス工業の第7次IT中期経営計画には、データ活用の民主化とバックオフィスのデジタル化を含むDX推進が明記されており、グループDX企画部は経営企画部と共に、健全経営に向けて経営支援のためのDX化を進めることになった。
2. 導入前の課題:ダッシュボードを作成するには情報システム部に依頼するか、個別にデータを抽出して表で分析していた
ダッシュボードの作成を情報システム部に依頼すると時間がかかるため、早期の分析ができなかった。また、独自にダッシュボードを作ろうとしても、データ加工に技術が必要で、都度計算と表やグラフを作成していたため、担当者の負荷が大きかった。
3. なぜDomo?:導入済みのグループ企業にヒアリングして選定
プログラミングスキルが無くてもノーコード/ローコードで利用できること、自走できることを第一条件にデータ分析ツールを選定。すでにDomoを導入していた大和物流にヒアリングし導入を決定した。
4. 全社展開:エリア経営者向けのダッシュボード作成
まず、財務データ、非財務データ、市場情報が確認できるエリア経営者向けのダッシュボードを作成し、エリア経営者に個別に説明を行い展開した。経営企画部内でも情報共有のために利用している。
5. 導入後の効果:データ民主化の進捗は道半ば ここからが重要に
データドリブンの文化を定着させるための第一歩を踏み出した。一部のエリアでは、エリア内のマネジメント層が活用できるようにし、今後徐々に拡大していく予定。いずれはグループ全体のデータを統合したい。
1. ビジネス背景:中期経営計画に明示されたデータ活用の民主化とDX推進
少子高齢化、人口減少により、建築業界のニーズは大きく変化しています。そのニーズを把握し対応するために、大和ハウス工業の第7次IT中期経営計画では「データ活用の民主化」を目指し、人・仕組み、データそのものを包括的に取り込んだ施策を展開することを明示しています。データ活用の民主化とは、ビジネスの当事者が自律的に目的を達成するためにデータの活用方法を発想し、自ら実践していくことです。同時に、労働人口の減少に対応するための業務効率化として、バックオフィスのデジタル化を含むDX推進が中期経営計画に明記されています。
「そもそも建設業は、建築現場の技量やスキル、営業担当者のスキルなどデータ化されていない要素が多く、データ活用が難しいという課題があります。経営戦略を踏まえて、大和ハウスグループ全体のDX推進を行うグループDX企画部では、経営企画部とタッグを組んで、まずは経営支援のためのDX化を進めていくことになりました」(藏前氏)
経営企画部は、経営層とエリア経営者と呼ばれる支社長の支援策として、マネジメントに有益な情報を提供する部門です。提供する主な情報は、受注、売上、利益などを集約した財務関連指標と、離職率、人材育成状況などの健全経営に関わる指標があります。経営者向けの情報を提供する経営分析グループ、エリア経営者向けの情報を提供する経営支援グループは、それぞれデータを収集し手作業でExcelにまとめて資料を作成しています。
2. 導入前の課題:ダッシュボードを作成するには情報システム部に依頼するか、個別にデータを抽出して表で分析していた
同社ではこれからさらに多様化する社会の中で、さらにデータ活用の経営分析のレベルを上げることが一つの課題でした。以前は、情報システム部にダッシュボード作成を依頼していましたが、ダッシュボードが完成するまでには、いくつもの打ち合わせと試行を繰り返すために時間がかっていました。
「現場はITの素人、IT部門は現場の素人なので、話し合って作っても想定通りのダッシュボードができないことがあります。修正を繰り返して1年以上かけて完成することもありました。ところが完成した時には社会状況が変わって、活用できないこともありました」(藏前氏)
中途入社の田島氏は、管理会計の業務に3年ほど前に就き、管理会計の膨大な量のEXCELで作成された一覧表を読み解くのに苦労したという。エリア別・事業所別・事業別に、利益計画の受注・売上・利益の見通しや、進捗に関する指標、利益に影響する原価率や固定費、そして人員などをまとめた一覧表だが、それを一目見て課題を発見するには、その表への慣れだけでなく、経験による察知能力も必要であった。これらの情報を、より多くの人にわかりやすく共有するには、表だけでなくグラフ化などによる見せ方を変える方法も必要だと考えていました。
3. なぜDomo?:導入済みのグループ企業にヒアリングして選定
誰もがデータを活用できるデータの民主化を実現するためには、データを収集・集約するだけではなく、活用できる仕組みが必要でした。データドリブンな会社にするための企画を担当した藏前氏、川越氏は当時を次のように振り返ります。
「すでに会社で導入しているツールも含め、BIツールの調査を行いました。BI製品はインターネット検索や調査では実務レベルでの活用詳細のイメージがつかめず、情報収集に困っていました。その時、大和物流の関係からDomoには直接問合せができ、良いタイミングでより詳しい情報が得られました。オンラインセミナーにも参加し活用イメージが湧きました」(川越氏)
「製品の選定にあたっては、プログラミングの知識がなくてもノーコード/ローコードで利用できること、IT部門に頼ることなく自走できることを第一条件として検討しました。知識がないとデータ加工ができないツールでは、トライアンドエラーを繰り返しながらブラッシュアップしていく運用ができないからです」(藏前氏)
グループ会社の大和物流でDomoを導入しており、経営企画部の元メンバーが着任していたことから、Domoについて話を聞きました。
「経営数値の報告や事業所の倉庫の出荷管理など、用途にあわせて活用できることを聞きました。あわせて、導入時、Domo正規パートナー・導入コンサルの支援を受けて短期間で実装できたと伺い、その意味で、サポートが充実していると感じました」(川越氏)
Domoの試行においては、「社内で他のBI製品が導入されていたため、まずは経営企画部の中で小さく試し、効果が確認できれば広めていくという方向性で情報システム部と調整を進めました。承認を進める上で、経営層からもデータドリブン文化を推進してほしいという肯定的な話がありました。
4. 全社展開:エリア経営者向けのダッシュボード作成
Domoを導入する以前から、経営企画部ではエリア別に「攻めと守りのバランス経営評価シート」を作成して提供していました。攻めは売上、利益などの財務情報、守りは健全経営などの非財務の指標が当たります。
「私のチームで作成していましたが、属人的に作成していることもあり、作成の手間がかかっていました。DXグループからDomoの導入の話を聞き、まずはこの『攻めと守りのバランス経営評価シート』に、着工統計などの市場情報を加えたものをダッシュボード化すれば、複数の情報をかけ合わせて経営判断の材料にできると考えました」(百武氏)
ダッシュボードの作成にあたっては、特に非財務データの収集に苦労したといいます。データが分散しており、評価後の数値だけではなく評価に至った元のデータも含めて収集する必要があったからです。ダッシュボード作成までに9ヶ月間の準備期間が必要でした。
ダッシュボードができた2022年12月からは、11のエリア経営者を訪問し、個別にダッシュボードの利用方法の説明会を実施し、要望を受けてカードを追加するなどの対応を行いました。現在は、エリアごとのダッシュボードも用意して地域別の情報が見られるようにしています。
各エリアには、支社があり、その下に事業所、営業所があります。同社は事業本部制であるため、住宅、集合住宅、流通店舗、建築、環境エネルギーなどの事業があります。エリア経営者には、これらの事業を横串で刺して、総合的に経営状況を判断する役割があるため、ダッシュボードで全体的な数値を把握できることは前向きに受け止められています。移動時間にタブレット端末を活用しているエリア経営者もいます。
また、経営企画部経営支援室経営分析グループでは、分析グループ用のダッシュボードを作成し、主に管理会計情報から様々なカードを作成し、分析を行っています。部内でも、Domoを使って動的に分析結果を共有しています。データ分析を部内で活用することと、自らが使っていくことで、ユーザーの立場に立ったダッシュボード作成ができると考えています。
5. 導入後の効果:データ民主化の進捗は道半ば ここからが重要に
エリア経営者にダッシュボードを提供するというステップ1のゴールを達成できました。これまで、自事業所や自エリアに限られたデータのみを確認していましたが、他事業所・エリアで得られた良い結果を知ることで、マネジメントの視野が広がり、データドリブンな経営の理解が深まりつつあります。
「一部のエリアでは、エリア経営者に加えて、支店長や総務・経理のバックオフィスの責任者にアカウントを発行しました。マネジメントだけでなく、支店とのコミュニケーション時に利用することで、エリア全体の相乗効果を狙っています」(百武氏)
副次的な効果として、経営企画部のメンバーが試行錯誤を繰り返しながら、ダッシュボードをブラッシュアップする中で、データ活用のスキルが身についたことを評価しています。
Domoの導入プロジェクトを通して、Domoが統合データ基盤の利活用の見本となり、会社全体のデータドリブン文化の土台ができたといいます。
「データの民主化は、データ利活用の土台となる統合データ基盤ができただけでは道半ばと考えます。家で置き換えるのならば、土台の上に家が建ち、家具が入り、インフラが整って初めて住めるようになるように、基盤データを活用して、過去のデータ分析から現在の状況をリアルタイムで確認できる環境を構築して初めてデータの民主化による効果が発生すると言えます。いずれはグループ企業でもデータ活用したいという展望があり、さらなる展開を進めます」(藏前氏)
“人が作成する報告書は報告者の意図が含まれ、受領者はその報告に基づいた判断を下します。それに対して、ダッシュボードは、作成者の意図を反映していないデータを可視化するので、利用者は視覚的に得た正しい情報で判断を下すことになります。また、データをかけ合わせることや、絞り込み、深堀するなど、より高度なデータ活用を推進していきます”
※記載内容は2024年5月に行なった取材内容に基づくものです。